宗教音楽センターでは、これまで SMC News を年に 2 回発行してきました。しかし、コロナ危機 により人々が集まる機会が減り、紙媒体のニュースを各所に届けることが、とても難しくなってきたことをきっかけに、E-Newsletter を電子メールで配信するとともに、不定期でウェブニュースを発行することにしました。 最初の 8 月 20 日号では、名誉教授の大西直樹先生と草苅義子さんに寄稿していただきました。 大西直樹先生は、ICU 出身でアメリカ文学がご専門として長くICUで教鞭を執ってこられました。 オルガン奉献当初の様子をよくご存知の一人です。大西先生には何回かに分けて当時のことをお書きいただきます。 草苅義子さんは、オルガン製作家の草苅徹夫さんのご夫人です。草苅徹夫さんは本館4階の森オルガ ンの製作者です。ICU 教会会員でもあり、草苅徹夫さんのオルガン製作をずっと支えてこられた方です。 2人にその頃の思い出を語っていただきました。
リーガーオルガンこぼれ話 ICU 名誉教授 大西直樹
1970 年 10 月、ICU 教会にリーガー社の本格的オルガンが奉献された。そして 73 年 2 月 11 日、NHK テレビが ICU のオルガン演奏を全国放映をしたのは画期的だった。演奏者はアントン・ハイラーとマリ ー・クレール・アランという世界的なオルガニストで、本格的オルガンによるコンサートは大きなインパクトを与えた。この件を含めて、リーガーオルガンの設立には興味深い逸話にあふれている。
大学の初代理事長の東ケ崎潔氏は、1967 年三寿夫人が亡くなった時、ICU 教会で持たれた葬儀での 献金を将来のオルガン建設のために寄付されている。御子息の東ヶ崎(ゴードン)茂氏から私は彼の最晩年、幸いにもオルガンにまつわるエピソードを直接伺うことができた。彼は満州での終戦後三年間の シベリア抑留を経て帰還したが、やがてスワスモア大学へ留学する。渡米前オルガン演奏のレッスンを青山学院の奥田耕天氏から受けていた。そこにはニューイングランド音楽院に留学する林佑子先生もいた。ICU とは直接の関わりのない二人は、にもかかわらず ICU 教会には本格的なオルガンが必須との 堅い確信を共有していた。その決意を抱いて 1959 年の段階で大学教会の建て替えに着手していたレイモンド社を勝手におとづれ、将来設置された場合のオルガンの位置や音響に関する検討をしている。
その後、東京での国際見本市にリーガー社のオルガンが出品される予定だったが、見本市が中止とな りオーストリアに持ち帰るのではなく、日本で引取先を探していた。多分、1968 年、その話を茂氏が大学理事会と、ニューヨークの ICU 財団のショーロック氏に伝えたのが全ての始まりだろう。つまり、発端は大学でも教会でもなく、東ケ崎茂氏と林佑子先生という二人の確信と願いだったのだ。話を受けた理事会は財政的責任は負わないという条件で承認し、全てを ICU 教会に任せた。大学は 69 年の一学期 から学生ストライキに巻き込まれるが、その紛争で深く傷ついた大学の教会でオルガン建設が進み、一 年半後、奉献記念礼拝が持たれた。しかし、現在の貨幣価値で2億円超の資金調達はその時点で巨額の 未決済資金が残され、星野命先生を中心とする ICU 教会の壮大な募金活動が展開される。こうして、 ICUと直接関わりのない二人の願いから始まったこのオルガン建設には、実に多くの人々の願いと、驚くべき献身が凝縮されているのだ。
ICU のオルガンと私 草苅義子
2021 年 6 月 12 日コロナ禍の中、リーガーオルガン奉献 50 周年記念コンサートが開催され、オルガンは、会堂一杯に輝かしく朗々と鳴り響いていました。 当初、聖歌隊席は会堂後方のバルコニーにあり、リードオルガンの伴奏で私も讃美しました。現在オ ルガンがある場所の壁には、木製の大きな十字架がありました。 1970 年オーストリアのリーガーオルガンが大学礼拝堂に設置されました。10 月オルガン奉献記念演奏 会は林佑子先生の演奏でした。先生は小柄な方でしたが、それは力強く、荘厳な音が会堂中に鳴り響いたのです。あの感動は忘れられません。「演奏前には美味しい物を頂かないと力が出ないのよ」とお聞きし ていたので、鰻丼やかつ丼などお届けした事がありました。
その後、オルガンアカデミー開催時は、世界的巨匠マリークレールアラン女史、アントンハイラー氏、 タリアビーニ氏が招聘されました。 私はアリタリアイタリア航空に勤務していたのでイタリア出身のタリアビーニ氏にファーストクラスに乗って頂きたいとの思いを会社に相談し成功しました。オルガニストは高橋秀先生、植田義子さん、 聖歌隊長、正井進さん、ドナルドワース教授も共に毎週礼拝で讃美しました。 ICU には 4 台のオルガンが有り、その一台が宗教音楽センターに設置させて頂いた草苅工房の森オルガンです。森有正先生は「若い人を育てたい」とのお考えで、幸運にも草苅徹夫にオルガン製作のチャンスと与えて下さいました。始め、金澤正剛先生からお電話頂いた内容は、思いもよらぬオルガン製作 の事でした。森先生は著書の印税をオルガン購入資金に充てると仰ったそうです。 金澤正剛先生始め、湯浅八郎学長、篠遠喜人、古屋安雄、諸先生と関係者がご賛同下さったと伺いました。製作には、少々時間が掛かりましたが、1985 年 I CU 本館宗教音楽センターに森オルガンを設置、完成させました。 オルガン募金委員長であった星野命先生は、資金繰りにご苦労された時、多くの人に少額ずつお願いすれば、完済できると考え、私もその中に入れて頂きました。ほどなく、先生の裁量で完済。その後リーガーオルガンは教会から大学側に寄贈されました。 オルガンは多くの人々の心に慰めと平安を与えながら、これからも礼拝と共に歌い続けるでしょう。 末永く、多くの人々に愛され、神を賛美する楽器として大切にされます様、お祈りいたします。 SOLI DEO GLORIA 神に栄光あれ