今日のバッハ研究: 問題と展望
クリスティーネ・ブランケン博士(バッハ・アルヒーフ・ライプツィヒ)
司会・通訳 佐藤望(国際基督教大学教授・宗教音楽センター所長)
日時:2023年8月14日(月)14時 - 17時
会場:国際基督教大学 本館4階 宗教音楽センター内 音楽ホール
*事前申し込み制です。ウェブ配信もございます。お申し込みはこちら
主催:日本音楽学会東日本支部
共催:国際基督教大学宗教音楽センター
【講演要旨】
バッハ作品の学術的校訂譜『新バッハ全集』、『バッハ資料集 Bach-Dokumente』、バッハ・デジタル Bach digital、そして最近では2022年に私がクリストフ・ヴォルフ、ペーター・ヴォルニーとともに編集した新しい『バッハ作品目録 Bach-Werke-Verzeichnis(BWV3)』の出版が完結もしくは完結間近である。このような今、バッハの一次資料を中心とした研究はどこへ向かうのだろうか。
2023年、バッハ・アルヒーフはドイツ科学アカデミーとともに25年計画の研究プロジェクトを開始した。すなわち、研究ポータルサイトBACHが 設立される予定で、そこでは、音楽家一族であるバッハ家に関する17世紀から19世紀までのすべての文書にオンラインでアクセスできるようにし、注釈をつける。これによって初めて、『バッハ資料集』の文書をその重要な文脈から研究することができるようになる。これにより、J. S. バッハ本人だけでなく、バッハ一族の音楽家・作曲家としての活動を、より包括的に理解することが可能になる。
20世紀後半に盛んだった「神学的バッハ研究」は、むしろ後退している。多くの出版物があるが、権威ある研究者の多くは亡くなっている。バッハのカンタータ、受難曲、オラトリオのテキストを主に扱う新しい世代の後継の研究者が、育つだろうか。 私は、クリストフ・ビルクマンを、バッハ作品の歌詞作者として特定した。この詩人は、私のさらなる研究を触発しており、私は、バッハが使用したテキスト(とその詩人をも)を、よりドイツ文学研究的視点から見る見方を強めている。ここでは、私の新しい研究について報告したい。これまでの神学的バッハ研究の通例とは対照的に、私はテクストの詩人に焦点を当てることが重要だと考えている。バッハ作品における言葉と音の深い関係についての問題、すでに十分研究され、ほとんど網羅的に書かれていると言ってもよいだだろう、これらはまた別のテーマである。
歴史的な(あるいは歴史的な情報に基づいた)演奏習慣に視線を向けると、ここでもある種の断絶が見られる。現在、これに関しては、各音楽大学で多くのことが達成されている。古楽のシーンは拡大し、歴史的な情報に基づいた演奏習慣に関する多くの知識が、通常の器楽や声楽教育にも取り入れられるようになったからだ。バッハの声楽作品の演奏は、今どこに向かっているのだろうか。それとは別に、バッハ演奏者たちの間には、即興的な要素を確立するという点で新しいものを提供したいという衝動に駆られている。すなわち、バッハのカンタータや受難曲の4部コラールの各行における間奏が、ここ数年流行している。これはバッハ時代のライプツィヒ時おいても、実践されていたのだろうか。
今回の講演では、特にこれら3つの観点に焦点をあて、それぞれについて、詳しく議論し、質疑を行う機会を設ける。
講演はドイツ語(日本語通訳付き)。質疑応答は、ドイツ語、日本語、英語で行われます。質疑応答の通訳は適宜行います。