2023年度冬学期
Contents
- 教員主導コース国際SLを振り返って
- コモン・グッド基金学生プロジェクトの3年間を振り返って
- SLアンバサダーによる受入れ団体取材
- 卒業生「ICUを振り返って」
- ICUの学修におけるサービス・ラーニングの位置づけ
- SL センター長からのメッセージ
- 編集後記
今年度は、2020年度に企画された「教員主導コース」の国際プログラムが初めて実施されました。また2021年度から3年間実施した「コモン・グッド基金学生プロジェクト」の最終年でもあります。本号では、2023年度のサービス・ラーニングを教員、学生、関係者それぞれからの視点からそれぞれの活動を振り返るとともに今後のサービス・ラーニングを模索します。
教員主導コース国際サービス・ラーニングを振り返って
李 勝勲(リー・スンフン)教授
アーツ・サイエンス学科(言語学)
2023年8月、韓国でのSLCプログラムは忠清北道の美原で4週間にわたって行われた。ゴンベサ農場のプログラム・コーディネーターの指導のもと、参加した生徒たちは韓国の農村地域でさまざまなステークホルダーと交流した。幼稚園から高校までの学校の生徒、地元企業の経営者、若手農家との活動を通して、地方の人口減少に悩む日本と韓国の共通点と相違点が明らかになった。これらの農村地域で共有されている課題は、それぞれの国が直面している問題に対する微妙な理解を育んだ。受入関係者は親しみともてなしの雰囲気の中、学生たちを温かく迎え入れてくださった。さらに、学生たちは、政策立案者と密接に協力している地方の大学の学者たちと交流する機会を得た。学生たちは、学者と関係者の間で意見や思考プロセスが異なることに驚いた。SLプログラムを通して社会における多様な意見に触れることで、学生の体験的学習はさらに深まった。今後、同様のプログラムを実施することは、SLCの学生たちにとって、表面的には似ているように見える国々に存在する微妙な違いについて貴重な洞察を得る機会となり、大いに価値のあるものとなるだろう。
コモン・グッド基金学生プロジェクトの3年間を振り返って
ポール・ヘイスティングス 氏
日本国際基督教大学財団(Japan ICU Foundation)代表兼CEO
私はボウディン大学(米国・メイン州)の4年生だった頃、「コモン・グッド・グラント・プロジェクト」という新しい課外プログラムに参加しました。プロジェクトの趣旨はいたってシンプルでした。選抜された学生グループが、ボウディン大学が提供する1万ドルを地元の非営利団体にグラント(助成金)として配分するというものでした。その過程で、私たちは助成金について宣伝し、申請システムを考案・運営し、申請書を審査して、助成金の授賞先を決定する方法を学ばねばなりませんでした。この経験は私に大きな影響を与えました。それまでは、大学を受験したり、授業で学業に成績をつけられるなど、評価される立場しか経験したことがありませんでした。しかしこのプロジェクトを通して逆の立場、つまり評価する側に立つことになったのです。これによって得た新しい視点と責任は、貴重な学びの経験を与えてくれました。
2019年から2020年にかけて、私はICUキャンパスで働く機会を得ました。その間、当時のサービス・ラーニング・センター(SLC)長であった西村幹子先生と、センターのスタッフの方々と何度かミーティングを行い、ICUで「コモン・グッド基金学生プロジェクト」を立ち上げることを提案しました。その結果、JICUFとSLCは、JICUFが年間100万円を提供し、SLCがキャンパスで学生の指導に当たって、このプログラムを3年間試験的に実施することに合意しました。プログラムは大きな成功を収め、参加したICUの学生や地域社会にポジティブな影響を与えたと考えています。3年間で、33人の学生がプログラムに参加し、述べ36の地元団体から助成金の申請がありました。
SLアンバサダーによる受入れ団体取材
木村 なつ
チャルジョウ農場、ダーナビレッジ(福島)
福島県にあるチャルジョウ農場、ダーナビレッジで一ヶ月活動をしました。農場では毎日の農作業を通して環境に配慮した農業を学び、ダーナビレッジでは世界中から集まったボランティアの方と共同生活を行いました。活動先を自分で探すことは想像していた以上に大変で、準備だけでなく知り合いがいない場所に一人で飛び込むということに対して不安が大きかったです。しかし、この経験が自分の成長や新しい自分に気づくことに繋がりました。自分の興味に沿った活動ができ、自分で交渉する力や一人で新しいコミュニティに入るという貴重な経験ができる「自分で活動先を探す」コミュニティ・サービス・ラーニングを選択することをおすすめします。
私の滞在したダーナビレッジは、国際的な環境で農業や環境、食について実践的に学ぶことができ、国内ではなかなかできないような貴重な体験ができる場所です。
ダーナビレッジを運営する小川美農里さんにダーナビレッジの魅力について伺いました。
「ダーナビレッジでは、世界中から集まったボランティアと暮らしを共にします。世界中の人々と出会い世界の出来事に触れて視野を広げることができるだけではなく、20代、30代といった年齢の異なる人と出会うことができます。」
私も実際に進路相談をしてもらったり、多様な生き方、働き方について知ることができました。国際的な交流を考えるとどうしても海外に目を向けがちですが、国内でも充実した経験ができ、国内だからこその出会いも多いです。
「また、環境再生型農業を行い、毎朝取れる野菜を使ってヴィーガン食を頂くことで、生きる本質である食、農に日々触れる体験ができます。常に自然が身近にあり、地球に生かされていると感じられる生活はなかなかできない貴重なものです。」
環境に配慮した農業や生活だけでなく、多様な人、生き方との出会いによりたった1ヶ月ですが自分の視野が広がったのを感じ、将来に対する考え方も変化しました。
年齢も国籍も違う人との出会いによって成長したい人、環境問題に興味がある人、生き方に疑問を感じている人、ヴィーガン食や農業を体験したい人などにおすすめですが、学ぶ姿勢、挑戦する姿勢がある人なら沢山のことを吸収できる場所です。ダーナビレッジも私たち学生のような、主体的に自分の人生を選ぶ分岐点にいる人との交流を楽しみにしてくれています。
ぜひ、ダーナビレッジで沢山の人と出会い、地球とのつながりを感じられるユニークな1ヶ月を過ごしてみてください。
卒業生「ICUを振り返って」
朝倉 凜花
アジアキリスト教教育基金(ACEF)
春学期にGEのサービス・ラーニング(SL)を履修したことを機に、秋冬もコミュニティSLでACEFでの活動を行いました。その後2022年夏には、当時COVID-19の流行により叶わなかったバングラデシュへの渡航が実現し、ACEFが支援している小中学校への訪問や、SL活動当初に立ち上げたマイクロファイナンスの視察を行いました。
ICU入学直後に始めたSLは、今振り返ると現在の私の基盤を築いてくれたと感じます。SL活動では受け身でもなく、奉仕するでもなく、自らで問いを見つけ、活動先の団体と協働しながら主体的に動くことが求められていました。この姿勢は他の学内外の活動において常に私が大切にしたものであり、今後も大切にしていきたいと思うものです。また、SLは私は無力な存在ではなく、社会を変革できる1人であることを気づかせてくれました。
卒業後は監査法人に就職します。高い倫理観を持って社会課題と向き合い、社会を変革できる1人として私に何ができるのが常に考え続けたいです。
古川 雅康
メノビレッジ長沼(北海道)
私が北海道のメノビレッジ長沼で過ごしたのは2021年夏、コミュニティ・サービスラーニングのプログラムでした。それはレイモンドさんご夫妻の取り組む地域社会と自然に寄り添った農業を体験し、持続可能な社会への考えを深める経験でした。耕作が環境にどのような影響を与えるか、地域社会の今と未来をどのように作っていくかなど、体験を通じて抱いた問いは多岐に渡り、時に混乱しつつも充実した日々でした。特に新しい農法の模索として学んだ耕さない農法は植物と土壌の菌類の関わりに関心を深め、進学先の大学院を決定するきっかけになりました。また、人・生き物・環境との関係性に想いを馳せたサービス・ラーニング(SL)の日々は「大地の倫理」という環境思想を扱った卒業研究にも繋がっています。学問的な理解に加えて、体験を通して物事への尊重の姿勢を育む。SLでの交流は、座学以上にそうした精神面での変化があったと思います。進学後も学問に励むとともに、人や自然との関係を大切にしていきたいです。
ICUの学修におけるサービス・ラーニングの位置づけ
ロバート・エスキルドセン 教授
国際基督教大学 学務副学長
間もなく多くの学生がICUを卒業し、人生の新たな局面を迎える。また、4月からは新入生が本学で学び始め、新たな局面を迎える。この転換期に、私は大学教育の価値について少し考えてみたい。私にとってその価値は、学生が経験すること、そしてその経験が社会貢献能力を高める方法にある。
ICUのサービス・ラーニング・プログラムは、学生にさまざまな社会的、経済的、文化的環境を体験する素晴らしい機会を提供している。しかし、学生が奉仕活動に取り組むとき、ひとつのテーマが繰り返されるようだ。学生たちは他人を助けるつもりだが、その助けを提供するうちに、自分も助けられていることに気づくことが多いのだ。サービスとは一方通行ではなく、対話の一形態であり、サービス・ラーニングに参加する生徒は、この対話を通して、自分自身について、社会について、そして自分とは異なる人々についての洞察を得るのである。サービス・ラーニングは生徒にとって価値のあるものであるが、他人を助けるのに遅すぎるということはない。他人を助けるために一歩踏み出せば、それがどれだけ自分を助けてくれるかを知ることができるかもしれない。
SL センター長からのメッセージ
加藤 恵津子 教授
文化人類学
サービス・ラーニング・センター センター長
お正月に能登半島で大地震が発生し、大変ショッキングな年明けとなりました。被災された皆さまに心からお見舞い申し上げます。家でも旅先でも、不測の事態を想像する必要がありますね。SLでも、サービス先で大洪水に遭ったケースがあると聞きます。サービスをしに行ったつもりが被災し、現地の方やレスキュー隊員に助けてもらうかもしれません。なじみのない土地では、どんなに若く元気な人でも「災害弱者」になりえます。そんな時はサービスされる側の立場をしっかり学び、その上で可能なら「できることはありませんか」と尋ね、あるいは自ら見つけて、小さな力を提供していけたらよいですね。能登でも、被災者みずからが壊れた家から食材を持ち寄って炊き出しをしたり、暖を取るものや場(ふとん、ビニールハウス等)を分かち合ったりする姿が報じられました。「助ける・助けられる」に境界はないと知りました。一日も早い復興をお祈りします。
編集後記
今年は、様々な挑戦を通して自分が学び、成長し続けることをより楽しみます。一歩前へ行くこと。その道のりと1年後の自分の成長を楽しみしたいと思います。
自然災害に備えて、家の防災対策を見直すことは大事と思わされました。早速防災グッズを購入したのですが、いざという時にちゃんと使えるよう、使い方も練習しないといけません。
年を追うごとに気づかぬ内に凝り固まっていく心と身体。自己嫌悪に陥る日々ですが、くよくよ悩んでばかりいないで、柔軟になるために行動することを今年の目標にします。
今年は、興味のあることには臆せず挑戦する年にしたいと思っています。何事も体が資本!ということで、ピラティスに通い始めました。骨や筋肉の動きを知り、改めて自分の体の使い方を見直すきっかけとなっています。
大学基金を担当されている理事の講演を通じて資産運用について考える様になりました。昨年から投資に関する関する勉強を進め、次年度は実践に移るつもりです。