2024年度秋学期
今年も暑さの厳しい夏となりました。この夏の国際サービス・ラーニング・プログラムでは46名の学生がインド、フィリピン、インドネシア、南アフリカのサービス・ラーニング・プログラムに参加しました。また、コミュニティ・サービス・ラーニングには、5名の学生が参加し、長崎市、秋田県五城目町、山梨県富士吉田市、東京都内で活動しました。
充実した思い出深い1か月の活動を終え、秋学期には学生たちは「サービス活動の振り返りと共有」の授業の中で、他の学生や教員とのディスカッションを通じて学びを深めました。
本号では、活動を終えた学生たちの体験談や受入れ先の皆さまの声、センター長による活動先視察レポートをまとめました。サービス・ラーニングの熱い夏をお伝えできれば幸いです。
Contents
- 2024年度コミュニティ・サービス・ラーニング
・参加者の声
・学生受入団体の声
・長崎視察 - 2024年度国際サービス・ラーニング
・参加者の声
・海外パートナ一大学の声 - SLアンバサダー 新メンバー紹介
- SL センター長からのメッセージ
- 編集後記
2024年度 コミュニティ・サービス・ラーニング
この夏は、5名の学生がコミュニティ・サービス・ラーニングに参加しました。2名が長崎でのプログラムに、1名がドチャベンジャーズ(秋田県五城目町)でのプログラムに参加し、2名は自ら活動先を開拓して活動を行いました。
今年は初の試みとして活動中に参加者交流会をオンラインで開催し、昨年度の参加者を交えて意見交換を行いました。交流会では、現地での活動を通して自身のポジショナリティーや問いに向き合い、悩み考えながら学びを深めていく学生の様子が印象的でした。
改めまして、学生に活動と学びの機会を与えてくださった受入れ先の皆さまに感謝申し上げます。
例年夏に開催していたJapan Summer Service-Learning Programは、今年度は少し形を変えて12月に開催することになりました。
インドのレディ・ドーク大学から2名、フィリピンのシリマン大学から2名の学生が来日して、三鷹市近郊で2週間のサービス活動を行います。新たな出会いを楽しみにしています。
参加者の声
2024年度の参加者「コミュニティ・サービス・ラーニング体験談」をみる
学生受入団体の声
今年も多くの団体の方々にご協力をいただきました。受け入れ団体の方々からコメントをいただきましたのでご紹介いたします。
一般社団法人ドチャベンジャーズ
サービスラーニングへ真夏の7月に秋田県五城目町にきた石井さん。はじめての秋田で、はじめての1人暮らし。初日の夜に開いた歓迎会で、「なにをすればいいかわからない」と不安そうだった。滞在場所は500年続く朝市通りに面した元自転車屋の空き家。朝市のある日にシャッターを開け、朝市を通る人たちと「これからこの店舗でなにがはじまるだろう?」と話し合あった。
地域の人たちの顔を覚えようと、人を探しては声をかけ続け、両手に収まらないくらいの人と挨拶を交わす関係になった。
東京に帰る前日に滞在した感想を聞くと、「1ヶ月では足りない、最低でも3ヶ月くらい必要」と、取り組むことを見出し、自信に満ちた笑顔が印象的でした。
三鷹市 健康福祉部地域福祉課
今回、地域福祉課では市民との地域活動に興味がある学生を受入れました。学生には2か月の間、住民参加の支え合いの仕組みづくりをめざす「地域ケアネットワーク」での会議やサロン等イベントの準備・当日参加、犯罪や非行のない地域社会を築く「社会を明るくする運動」での街頭PRなど地域福祉に関わる業務全般に携わっていただきました。
また、学生目線で誰もがわかりやすいチラシも作成してもらいました。
子どもから高齢者まで幅広い世代の市民と積極的に交流し、地域の力を実感することで、学生自身にとっても良い経験となったのであれば幸いです。学生の受入れによって、職員側もいい刺激を受けることができました。
(三鷹市健康福祉部地域福祉課 半田 知冴氏)
公益財団法人長崎平和推進協会
被爆地長崎の願いである「核兵器廃絶と世界恒久平和の実現」を目指して、会員や市民の皆様のご協力のもとに活動している公益財団法人です。
今年の夏は毎日とても暑かったのですが、参加した学生は、およそ1カ月の間、長崎原爆資料館や被爆遺構巡り、被爆体験の聴講などをとおして原爆被爆の実相を学ぶとともに、長崎大学RECNAの講義受講や平和問題のシンポジウムへの参加などを通して核兵器の問題についても学びました。
また、平和の大切さを伝える若者で構成される青少年ピースボランティアとともに活動し、全国の自治体から派遣される平和使節団が参加するフォーラムの運営に携わりました。
核兵器のない平和な世界の実現のために被爆者の体験や原爆被爆の実相など学んだことを周りの人たちに伝えていただきたいと思います。
山梨県富士山科学研究所 環境教育交流部
富士山の顕著な普遍的価値を保存管理し活用していくことを目的に、富士山を中心とした調査研究と学びの場を通した普及啓発などの活動に取り組んでいます。
参加した学生は、以前に研究所開催の公開講座などに参加しており、自然環境の保全に興味があるとのことでした。
そのため、普及啓発や教育の活動をはじめ、現場での調査や研究、問題解決への取り組みなど様々な活動に携わっていただきました。期間中、積極的にチャレンジする姿勢に関わったこちらの職員もよい刺激を受けることが出来ました。
今回の体験から、環境保全などの活動の重要性と実施する上での社会との連携の大切さを感じ、今後に生かしていただければと思います。
長崎視察
まばゆい夕方の白い光と、坂に囲まれた「釜の底」の蒸し暑さの中、私はさまざまな肌の色の人が行き交う平和公園バス停に着きました。この特別な時期に長崎に来ることができたのは、長崎平和推進協会で今年も二名のICU生が30日間のサービス・ラーニング(SL)をさせていただき、その総仕上げの二日間を視察するためでした。学生たちの最大の仕事は、8月8日・9日の「青少年ピースフォーラム」で、全国から集まる約400人の小中高校生に、長崎の若者を含む100人近いボランティア仲間と、原爆関連スポットのガイドやワークショップを行うこと。それまでのひと月を、学生たちは学習会、長崎大学RECNA(核兵器廃絶研究センター)での研修、そして自分なりの勉強に費やしてきました。
8月9日の朝、爆心地公園の黒い塔の前では人々が手を合わせています。隣接する、水色の男性像で有名な平和公園では、第79回平和祈念式典が行われ、学生も私も11時02分に頭を垂れました。テントに時おり吹き込む風に、亡くなった方々の霊を感じます。午後にはピースフォーラム二日目が行われ、「ケンカ・戦争はなぜ起きるのか」などの根本的な問いに子どもたちが活発に意見を交わし、それを学生ボランティアが巧みに促していました。そして夜7時過ぎ、学生たちはSL修了証をいただきました。
翌日ひとりでおとずれた浦上天主堂は、原爆で全壊し、のちに再建されたものですが、建物の前には黒く焼かれ、頭の吹き飛んだ聖人像が今も立っています。式典にイスラエルを呼ばなかったことで議論を呼んだ今年の長崎でしたが、背後には、爆撃されるガザ市民の姿に、原爆の熱さと痛みを感じ、憤る長崎市民がそれだけ多くいるのでしょう。被爆者と被爆経験者の医療格差も、この夏、解決に至りませんでした。終わりのない核兵器の被害をICU生が体感し続けるために、長崎でのSLがいつまでも続くことを祈ります。
2024年度 国際サービス・ラーニング
この夏は、海外の4大学に46名の学生を派遣しました。
フィリピンのシリマン大学のプログラムには最も多くの学生を受け入れていただき、16名の学生が1週間ごとに異なる団体やコミュニティで活動の機会をいただきました。
インドネシアのペトラ・クリスチャン大学が主催するコミュニティ・アウトリーチ・プログラムには13名の学生が参加し、農村集落でイスラム教徒の家庭にホームステイしながら、現地及び他のアジアやヨーロッパの国々から参加した学生と共に汗を流しました。
インドのレディ・ドーク⼤学へは6名の学生が渡航しました。インドの文化と社会を学びながら、現地の学校にて教育支援に携わらせていただきました。
また、南アフリカのケープタウン大学へは、これまでで最多の11名の学生を派遣しました。アフリカの雄大な自然に触れるとともに、現在の社会構造が過去の歴史や現代政治と深く結びついていることを身をもって学ぶ濃密な1ヶ月過ごしました。
学生たちは各地でかけがえのない出会いを経験し、大きな学びを得ました。「人生を変える経験」と語る学生もおり、これもすべて、パートナー大学のご支援のおかげです。引き続き、より良いプログラム作りを共に進めていければ幸いです。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
参加者の声
2024年度の参加者「国際サービス・ラーニング体験談」をみる
海外パートナ一大学の声
今年も多くの海外パートナ一大学の方々にご協力をいただきました。パートナ一大学の方々からコメントをいただきましたのでご紹介いたします。
インドネシア Petra Christian University
ペトラ・クリスチャン大学のインターナショナル・コミュニティ・アウトリーチ・プログラム(iCOP)2024の一環として、サービス・ラーニング活動の成功に貢献いただいた皆様に感謝申し上げます。
2024年7月から8月にかけて、6か国7大学の学生たちが協力し、東ジャワ州モジョケ県と東ヌサトゥンガラ州西スンバ県で奉仕活動を行いました。地域社会と互いに学びあい、成長する活動に全員で取り組みました。事前調査、話し合いを経て、立案から実施に至るまで、全体が効果的に運営されました。皆様そしてパートナーや自治体の方々、揺るぎないご支援をありがとうございました。このようなコラボレーションが実現できたことに深く感謝いたします。
iCOP参加者は、活動先の村々にある重要な課題に取り組み、長期に渡り地域に残る活動を行いました。子供たちに教えたり、衛生設備の建設や貯水池、ろ過システムの改修を行ったり、観光エリアの整備、ソフトスキルのトレーニングも実施しました。これらはすべて、彼らの学習と奉仕活動の一環でした。村々から寄せられたフィードバックの中で最も印象的だったのは、「iCOPの参加者たちと一緒に活動ができて感謝している。今では水がきれいになり、私たちの健康と日常生活が大幅に改善された」というものでした。
iCOPを通じて、私たちは持続可能な開発目標の達成を支援し、すべての人々のより良い、より持続可能な未来を目指して活動を続けています。この共通のビジョンを胸に、すべてのパートナーの皆様のCOP2025への参加を心よりお待ちしております。
南アフリカ University of Cape Town
ケープタウン大学(UCT)国際部のグローバル・ラーニング・ユニットは、2024年7月7日から8月8日まで、国際基督教大学(ICU)の学生11名を対象に、南アフリカの基礎教育に関するサービス・ラーニング・プログラム(SLP)を実施しました。5週間のプログラム期間中、学生たちは講義と実践的な教育体験を織り交ぜながら、教育における持続可能性や、南アフリカの教育政策、公平性、革新性の豊かな歴史を掘り下げました。
学生たちは、南アフリカ国立植物研究所(SANBI)のような準政府機関、イジコ博物館、正規学校教育、地域密着型団体など、さまざまな活動に参加する機会を得ました。
UCT SLPの学術的フォーカスには、地球市民教育(GCE)と持続可能性のための教育(EfS)が含まれていました。また学生たちは、南アフリカの社会政治史と、その状況に対する地域社会の反応についても調査しました。参加者は、以下のような体験型活動にも参加しました。
- カーステンボッシュ植物園での体験学習の進行
- コミュニティ支援活動のサポート
- 文化慣習の共有
- 学校での学習活動のサポート
SANBIのゴールド・フィールズ環境センターは、世界の生物多様性ホットスポットのひとつで、テーブルマウンテン国立公園内に位置しています。学習体験には、この地域の環境教育(EE)のオリエンテーションと、さまざまな学習戦略の探究が含まれていました。参加者はその後、既存の環境教育プログラムや学校グループとの活動においてサポート的な役割を担いました。
UCT近郊の参加校では、生徒たちが授業を行い、学校コミュニティと交流する機会が提供され、現行の学校プログラムを支援しました。
イジコ博物館は、学生たちが専門家と関わり、歴史的および現在の社会的背景についてより深く学ぶ機会を提供しました。学生たちはアパルトヘイトや植民地主義、そして博物館の役割や対話のための「ブレイブ・スペース」について学びました。
カラス財団は、食糧安全保障とジェンダーに基づく暴力に取り組む地域密着型の組織です。学生たちは、地域社会での奉仕活動やその他の地域社会への働きかけに参加することができました。
サービス・ラーニングアンバサダー 新メンバー紹介
サービス・ラーニングアンバサダーはICU学内外にサービス・ラーニングを広める活動に関わる現役のICU学生です。今年サービス・ラーニングに参加したICU生のうち、16名が新たにメンバーに加わりました。
新メンバー 實原 みちる
インドネシアのPetra Christian Universityが実施しているCOPというプログラムに参加させていただきました。このプログラムでは、5カ国(日本、韓国、台湾、オランダ、インドネシア)から集まった22人の学生と共に、村に1ヶ月間ホームステイをしながら、ウォータータンクや貯水槽の清掃・修理、村の観光地化に向けた活動、公共トイレの修繕、村人との文化交流など、様々な活動を行いました。1ヶ月の活動を通じて、自分の価値観が変わり、将来への希望を抱くことができました。この経験は私の人生において大きなターニングポイントとなり、かけがえのない思い出を築くことができました。そして何より、挑戦する勇気と行動する勇気の大切さを学びました。サービスラーニングに参加することは私にとって大きな挑戦であり、実際に行動に移したことで貴重な経験を得ることができました。また、活動中には定められた活動だけでなく、インタビューなどにも積極的に取り組むことで、新たな知見を得ることができました。
インドネシアに「第二の家族/居場所」ができたことが、私にとって大きな喜びです。素晴らしい経験ができたのも、活動中に関わってくださった全ての方々のおかげであり、感謝の気持ちでいっぱいです。
アンバサダーとしての活動を通じて、私が経験したことを伝え、挑戦する勇気を広めていきたいと考えています。
SL センター長からのメッセージ
加藤 恵津子 教授
文化人類学
サービス・ラーニング・センター センター長
「インドや東南アジアのSL生は大変だな、外に出るのも命懸けの暑さだろう」と思っていたら、「湿度が高い日本の夏の方がつらい」(在日フィリピン人談)。この夏、23区の熱中症死者は252人、うち243人が室内で死亡、うち158人はエアコン不使用で58人は不設置。9割が60歳以上ゆえ「高齢者は暑さを感じにくくエアコンをつけない」ことが問題だとされます。でもそんな彼らを気遣う人がいないことや、電気代が払えず耐えるしかないことの方が問題では?夏が来るだけで、国の中心で何百人も誰にも気づかれず死んでいくなら、日本ももはやグローバル・サウスでは?昨夏インドのSL会議で、カルカッタの人に「日本にスラム街はない。でも生活保護をもらうことを恥じて、アパートの部屋で餓死する親子もいる」と話すと驚かれました。Charity begins at home (マザー・テレサ)、homeとは「あらゆる身近な所」でしょう。
編集後記
今年も猛暑が続きました。蚊が少ないと喜んでいられません。ハワイ観光が避暑の選択肢になる時代、日本の秋は昭和の夏レベルの気温になったと感じます。「季節外れ」が常態化して、我々の四季の感覚に影響を与えそうです。
今夏は、庭の一番よく日が当たる場所にジニア(ヒャクニチソウ、主にメキシコ産)を植え、きれいに咲き乱れてくれました。前年同じ場所に植えていた草花がすべて枯れてしまったので、とにかく暑さに強い花を探した結果。花壇の花の顔ぶれも気候に応じて変化しますね。
子供のころ、セミ採りをするのが夏休みの日課でした。夕暮れの公園でなん十匹というセミが一斉に羽化している様子は神秘的で今でも忘れられません。そういえば酷暑だった今年の夏はセミの鳴き声が静かだったような。セミ好きの私には少し寂しい夏でした。
学生のころ友人と花火を観た帰り、亡くなった祖母のことを思い出した。いずれ両親も続き、私もそうなるのだと考えると、初めて「死」に恐怖を覚えました。暗い住宅街を悲しい気持ちで歩いたことを憶えています。まあ家族の顔を見たらそれどころではなくなりましたが。
涼しさを感じるようになった今、夏を思うと頭の中に流れてくるのは井上陽水の「少年時代」。この歌が流れた瞬間に子供の頃にタイムスリップしてしまいます。今年も酷暑でしたが、終わってしまうとなんだか切なさを覚えるのが夏ですね。