2024年度春学期
2024年度春学期がスタートし、一般教育科目の「サービス・ラーニング」では新入生9名を含む合計60名の学生が履修しました。サービス活動を通した学びのプロセスを講義と実際の活動から学ぶ本授業では、三鷹市近隣をはじめとする約30の地域団体で、履修生が18時間のサービス活動を行いました。活動内容は、子どもの支援、教育、福祉、環境、国際交流、まちづくりなど、多岐にわたるものとなりました。
また、学生の受入先である地域団体の方にご講演いただき、地域社会の課題について主体的に考えディスカッションする機会もありました。ご講演くださった方と授業終了後も熱心に話し込む学生の姿が印象的でした。
今回の授業の履修がきっかけで、夏季休暇中30日間のコミュニティ・サービス・ラーニングへの挑戦を決意した学生もいました。
本号では、国内のNPOや公的機関等で30日間活動するコミュニティ・サービス・ラーニングをはじめ国内でのサービス活動にフォーカスします。より多くの方にその魅力を知っていただき、海外のみならず国内でのサービス活動に目を向ける学生が増えるきっかけになることを願っています。
Contents
- 留学生の声「SL活動を経験して感じたこと」
- SLアンバサダーによる「SL活動と進路」
- SLアンバサダーによる受け入れ先取材
- サービス・ラーニングのための大学と地域社会のパートナーシップ構築
- SL センター長からのメッセージ
- 編集後記
留学生の声「SL活動を経験して感じたこと」
シンガポール出身の留学生がサービス・ラーニングの授業をきっかけに日本でSL活動を行いました。留学生ならではの視点でSL活動を振り返りました。
Sephie Yu Wen Lean
活動先: フリースペースコスモ/ひとはこやカフェ(東京都)
私が日本でボランティア活動をはじめたきっかけは、去年の秋学期のサービスラーニングの授業です。元々、ICUに来る前、ICUのサービスラーニングのプログラムに興味がありました。なぜかと言うと、シンガポールで私はボランティア活動をしていて、日本のボランティア活動を体験することで、国によって、ボランティア活動がどう違うかを感じてみたかったからです。
サービス・ラーニングの授業がきっかけで、二つの場所でサービス・ラーニングの活動をしました。それは、三鷹市にある「フリースクールコスモ」とJR東日本中央線コミュニティーデザインが運営している「ひとはこやカフェ」です。カフェでICUの卒業生からコーヒーの作り方を教えてもらったり、コミュニティーメンバーと糸かけアートを体験したりしました。カフェ以外にも、武蔵境駅でのパン祭り、ハロウィン子ども祭り、餅つきを手伝ったり、武蔵境駅オフィスを見学しました。カフェの活動を通して、地域のコミュニティーメンバーと交流する機会も増え、三鷹市の温かさを感じました。
フリースクールコスモでは、学校に通っていない子どもたちと話したり、遊んだりします。最初は自分が子どもの相談に乗ったり、コスモの活動に貢献したりしたかったのですが、ボランティアしている中で、この気持ちは少し変わりました。最初に子どもと接触した時、自分は外国人で日本語がうまく話せず、子どもの仲間には入りづらくて、少し落ち込んでしまいました。
でも、そこで元ICU生の先輩が助けてくれました。「セフィー、一緒にあそぼう」と、いつも私に声をかけてくれる先輩のおかげで、子どもたちと仲良くなることができました。コスモで学んだことは、子どもが自由に学びたい意志とその意志を支える環境の大切さです。
日本は現在では、不登校の社会問題が悪化していて、それは子どもの学ぶ環境と日本社会が求められる人材に関連するかもしれません。今は教育のあるべき姿に関心があり、コスモでこのテーマに興味ある子どもとスタッフと一緒に話す企画を製作中です。
SLアンバサダーによる「SL活動と進路」
SL活動での経験が卒業後の進路にどう繋がったか。コミュニティ・サービス・ラーニングを経験した4年生のSLアンバサダーが語ってくれました。
谷内田 直歩
活動先: メノビレッジ長沼(北海道)
2年生の夏休みの1ヶ月間、コミュニティ・サービス・ラーニングで北海道長沼町のメノビレッジ長沼に滞在しました。メノビレッジ長沼はCommunity-Shared Agriculture(地域で分かち合う農業)を軸とする農家で、野菜、小麦、羊などを育てています。
活動で印象的だったのは、「仕事」の捉え方です。元々私は仕事を、時間で区切られお金が発生する労働として捉えていました。一方、メノビレッジ長沼の方が口にしたのは、「人生を豊かにするための労働」でした。自然に生かされ、人の命の火を絶やさないように食べ物を作ることが農家の仕事であり、そこには数字では表せない豊かさがあると教えてくれました。
私は大学卒業後、障がい者の雇用を企業と繋げる仕事に就く予定です。サービス・ラーニングで得た豊かさの捉え方が決定の後押しになりました。お金があることではなく、人に向き合い人生の選択肢を増やしていくことが私にとっての豊かさだと思い、この仕事を選びました。
サービス・ラーニングは、価値観を広げる点で他の何ものにも代えがたい大切な時間でした。これからも、コミュニティ・サービス・ラーニングに挑戦する学生が増えていくことを願っています。
SLアンバサダーによる受け入れ先取材
コミュニティ・サービス・ラーニングを経験したSLアンバサダーが、受け入れ団体の方にインタビューしながら活動を振り返りました。
渡邊 宮子
活動先: りんごの木こどもクラブ(神奈川県)
私は子どもの気持ちやインクルーシブ教育に関心があり、2021年の秋学期に母校であるりんごの木こどもクラブ(以下、りんごの木)で30日間のサービス活動を行いました。 りんごの木は神奈川県横浜市にある認可外保育施設です。りんごの木は、1982年に中川ひろたかさん(現・シンガーソングライター、絵本作家)、斉藤雅美さん(元デザイナー、保育士)と柴田愛子さん(代表)によって子どものためのトータルな仕事を目指して発足されました。現在は柴田愛子さんが代表を務め、「子どもに寄り添う」を基本姿勢に保育を行っています。
当時のりんごの木での活動を振り返って、活動で一番お世話になった「まつも」こと佐藤清美さんにインタビューしました。
渡邊さん: 活動を振り返って、りんごの木の感じた、サービス・ラーニング学生受け入れに際しての感想(よかったこと、課題点、意義)を教えてください。
佐藤さん:渡邊宮子さん(以下宮子さん)は、勉強として来てくれているけれど、子どもたちはその事は知りません。『子どもを学びたい』=『子どもを知りたい』は、子どもにまっすぐ伝わり、宮子さんを仲間と認め、虜になります。子どもは敏感に感じる生き物です。宮子さんは、それを肌で感じたと思います。しかし、子どものケンカなどのトラブルへの対応は難しかったのではと感じ取れました。
子どもに触れるということは、1,自分の幼児期を知ること、2,自分が大きくなって不自由になったことを知ること、3,上と下もないことを知ること、4, おとなも子どももない、同じ人間を感じることではないでしょうか。活動を行ってこれらを知ったり感じたりできるのが、このプロジェクトの良さだと思います。
渡邊さん:「仲間」と言うキーワード、本当にその通りで、まつもが言っているように「仲間」と認めてくれているのをとても感じました。私がりんごの木にいくと必ず誰かが遊びに誘ってくれたり、お弁当を一緒に食べようと声をかけてくれたりします。りんごの木には決まったルールが存在せず、自分たちでルールを作ります。メンバーによってルールが異なる面白さを感じながら、いろんなルールの中で遊んだ時に「仲間」って認めてもらえている感覚がすごく嬉しかったですね。たしかに、ケンカへのトラブル対応は難しかったです。一緒に遊んでいると、子ども同士がケンカを始めることは多々ありました。でもケンカができるって素敵なことだなと個人的には思います。自分の気持ちを相手に伝えるってそう簡単にできることじゃないですから。それに子どもたちってお互いに謝ったら、ケンカしていなかったように元通りの関係に戻るんです。素直な心を持っていて素敵だなあと感じます。
活動先探しから活動後の現在を通して、私の感じる「SL活動の楽しさ」、「難しさ」、「受け入れ先との関係性」、「今後の展望」をまとめました。
SL活動の楽しさ:
コミュニティサービスラーニングの魅力は、自分が探求したいテーマに沿って、希望する活動先で学べることです。私は「教育とは何か」と「インクルーシブ教育とは何か」という課題設定をし、母校であるりんごの木で30日間のサービス活動を行いました。
1つ目の「教育とは何か」を模索するにあたり、子どもたちの気持ちを知ることが大切だと考え、りんごの木で活動することを決めました。りんごの木には、1歳半〜6歳までの幼児が通っています。子どもと実際に関わることで、子どもたちは日々何を思い、考えながら過ごしているのかを知り、考えることができたと思います。私は子どもが大好きなので、子どもと接する日々がとても楽しかったです。
2つ目の、「インクルーシブ教育とは何か」を模索するために、りんごの木の環境は最適でした。りんごの木は、どの子も受け入れ、寄り添い、一人ひとりの個を見ているためです。これはインクルーシブ教育を行っているからではなく、「子どもの心により添う姿勢」を大事にした保育を行うことによって、その環境が当たり前となり自然とインクルーシブな環境になっているのだと感じました。
SL活動の難しさ:
難しさは継続して通い続けることだと思います。私はサービス・ラーニングの活動が終わってからも勉強のためと子どもの成長を見たく、引き続き通わせていただきました。自分の研究テーマに沿って、学び続けられる場所があるのはとてもありがたいことです。実際に、他のSL活動生も受け入れ先に継続して通っている方を多く知っています。 今は、毎年8月に行われるOBキャンプに通ったり、運動会などのイベントに参加したりすることでりんごの木との繋がりを作っています。
受入先の方との関係性:
サービス活動におけるポジショナリティ(自らの立ち位置)は、子どもでもない、大人でもない、「私」と決めました。子どもたちにとっては対等に、でもりんごの木の大人のように接して欲しいし、りんごの木の大人にも信頼してほしかったからです。しかし、子どもから尋ねられた際に独断では判断ができないこともあり、ついついりんごの木の大人を頼ってしまいがちでした。また、私は勉強をしに来ている立場なので、「学生」としているべきか、「卒業生」としているべきか、「りんごの木の大人」としているべきか、活動中には常に悩んでいました。今だから言えることですが、今のように勉強ではない立場でりんごの木に通っている時の方がもっとフランクに話せていると思います。
今後の展望:
インクルーシブ教育に興味を持つことになった原点である、りんごの木での経験はかけがえのないものだと思います。インクルーシブ教育に興味を持ち始めたのは大学進学後です。インクルーシブ教育とは、「多様な子どもたちが地域の学校に通うことを保障するために、教育を改革するプロセスであり、国籍や人種、言語、性差、経済状況、宗教、障害のあるなしにかかわらず、すべての子どもが共に学び合う教育」のことです。りんごの木では、障がいのある子や外国にルーツを持つ子など様々な子が通っていましたが、小学校にあがり普通級・特別支援級・特別支援学校と分かれてしまうことに疑問を抱き、インクルーシブ教育を探るようになりました。その疑問をきっかけにりんごの木で勉強したり、豊中市の「ともに学び、ともに育つ」教育を実践している小学校で研修をしたり、様々な現場で学んできました。共通していたことは子どもが生き生きとして過ごしていたこと、そして自分たちの環境が「当たり前」となっていることです。一緒に育ち、過ごしてきたことで自然な関係性が作られています。障がいや国籍の違いの有無に拘わらず、「一緒にいるのが当たり前」となっている彼らからは障がいや違いという概念を感じません。子ども同士の関係性は本当にかけがえのないものだと思います。その子の気持ちや性格、接し方をよく理解しています。
学んでいる過程で、インクルーシブ教育を進めるうえで今の日本ではまだまだ課題が多く、実現は容易ではなく、時間とお金、そして市や行政サポートが必要になることがわかりました。そのため、少しづつステップアップしながらインクルーシブ教育を進める必要があると考えています。例えば、教職員の支援を必要とする生徒へやインクルーシブ教育への理解、合理的配慮をした教室作りなど、ステップアップできることは沢山あると思います。日本でインクルーシブ教育を進めていくには実現可能な方法であり、かつ日本の教育に沿ったものであることが求められています。そのため、日本に沿った実現可能なインクルーシブ教育を模索していくことが今後の私の課題です。
サービス・ラーニングのための大学と地域社会のパートナーシップ構築
黒沼 敦子 特任助教
教育学、サービス・ラーニング・コーディネーター
質の高いサービス・ラーニングを行うには、大学と地域社会のパートナーシップが不可欠です。そして、その可能性を最大限に引き出すには、関係者間の互恵的なパートナーシップの構築と維持が重要となります(Jacoby, 2015)。このパートナーシップは、サービス・ラーニングの関係者が他者と人間関係を構築することから始まります。学生(S)、地域団体(O)、教員(F)、大学の管理職や事務局(A)、地域住民(R)の間での相互作用の質が重要であり、SOFARモデルと呼ばれています(図1参照、Bringle et al., 2009)。
サービス・ラーニングにおける大学と地域社会のパートナーシップでは、大学が地域を教育的な資源として活用し、地域は大学の資源を自分たちの活動に活用することで、両者がWin-Winの関係を目指す「取引的なパートナーシップ」が一般的です。しかし、より高いレベルのパートナーシップとして「変容的なパートナーシップ」を目指すことが提唱されています。これは、単に大学と地域社会が取引的に活動や物事を行うだけではありません。サービス・ラーニングを通じて、個人や団体が自らの在り方を変容させ、大学と地域社会をより良い変化へ導くことを目指しているのです(Enos & Morton, 2003)。
サービス・ラーニングは、関わる人々の変容を通じてより良い世界を目指すものです。大学と地域社会との間に互恵的な関係性を築くことは、このプロセスにおいて極めて重要な意味を持っています。
SL センター長からのメッセージ
加藤 恵津子 教授
文化人類学
サービス・ラーニング・センター センター長
桜が散り、梅雨を経て、いよいよ夏本番ですね。春のGE「サービス・ラーニング」では履修人数に上限(70人)を設けました。18時間のサービスを行う学生の皆さんに、親密な議論をしていただきたいからです。「こんな短い時間で何ができるのか?」という声も聞きますが、国内外で30日間のサービスを行った人からも同じコメントが出ます。私たちは何をやっても「もっと時間があればもっと良くできるのに」と感じます。でもこれは私たちが、自分が限りある存在だとわかっているからこそ感じること。「もし永遠に生きることができてしまったら、今日これを行う意味はどこにあるのか」(V.フランクル)。永遠に生きられる存在は、永遠に何もしません(神様以外)。プレゼン、レポート、テストと、締切に追われて大学生活を駆け抜ける皆さん。時間が限られているからこそ生み出せる知恵や力を大切に。そしてサービスも、永遠ではない出会いの中でしか生まれないことを忘れずに。
編集後記
海外SLプログラムに参加する約50名の学生は、SL実習準備の授業を週1回受講し、自分の関心や問いを深め、チームワークを醸成してきました。パートナー大学の皆様のご支援を得て、一生に一度の素晴らしい夏を過ごせますように!
今年の春学期は、もうとにかく海外からの来客が多かった!またこうして国際的移動が活発になり、お客様とお話ししていると、ホットトピックスや課題は共通しているという認識を強めます。「コミュニティ」という定義を自ら狭めないようにしないと、と改めて思いました。
春学期はコーディネーターとしてサービス活動の受入団体の方々とお話をしたり、SLの授業を見学させていただく機会をいただきました。誇りと情熱をもって活動されている受入団体の方々や、真剣に考え議論する学生の皆さんの姿に触れ、多いに刺激を受けています。
ロードバイクがオーバーホール戻ってきて爽快に走行できるようになりました。2年間の間にも定期的にメンテナンスしていましたが、やはりはネジの緩み等細部にまでプロの方は手が届いており、素人との差をはっきり感じることができました。
初めて自治会のお役が回ってきました。担当はイベント運営です。例年楽しみにしている夏祭りも、今年は見る側でなく支える側に。大変そうではありますが、気持ちを切り替えて楽しもうと思います。