2026年度春学期
photo: MacLean Avenue, ICU
新緑がまぶしく、キャンパスにもさわやかな空気が広がる春学期。本年度も多くの学生が「サービス・ラーニング概論」を履修し、教室での学びに加えて、地域や社会の現場でのサービス活動を通して、自分の関心や問いと向き合ってきました。教室と現場を行き来するこうした経験は、日々の学びに新しい気づきや広がりをもたらしています。
この夏には、国際サービス・ラーニングに50名、コミュニティ・サービス・ラーニングに14名、さらに教員主導コースとしてケニアに4名、タイに4名の学生が参加する予定です。それぞれが異なる地域での活動に取り組みながら、多様な経験を積んでいきます。
本号では、「サービス・ラーニング経験と大学での学び」をテーマに、サービス・ラーニングと大学での学びとのつながりをあらためて見つめます。現場での経験から得た気づきが、その後の学びへどのようにつながっていくのか、その一端を感じていただければ幸いです。
Topic
Contents
- サービス・ラーニング経験と大学での学び~経験が学問になるとき~
- コミュニティ・サービス・ラーニング(長崎)
- 国際サービス・ラーニング(インド)
- リベラルアーツ教育におけるサービス・ラーニング
- SL センター長からのメッセージ
- 編集後記
サービス・ラーニング経験と大学での学び~経験が学問になるとき~
本特集では、サービス・ラーニング(SL)の経験が大学での学びとどのように結びつくのかを、学生と教員(SLアドヴァイザー)それぞれの立場から掘り下げます。ICUのサービス・ラーニングでは、学生が主体的に教員を選び、活動の前後を通じて助言と学術的指導を受けるSLアドヴァイザー制度を導入しています。
本号では、長崎でのコミュニティSLとインドでの国際SLに取り組んだ二組のペア(学生と教員〔SLアドヴァイザー〕)に寄稿いただきました。学生には自身の経験や試行錯誤のプロセスをもとに、学問的関心との接点を、教員には専門分野や指導経験を踏まえ、SLが学問的思考や問いの形成とどのように結びつくのかを語っていただきました。
コミュニティ・サービス・ラーニング(長崎)
吉田 帆菜
2025年度 コミュニティ・サービス・ラーニング 長崎プログラム参加
私の専攻は文化人類学とジェンダー・セクシュアリティ研究(GSS)です。文化人類学は、特定の社会や文化集団を「内側」の視点から理解し分析する学問であり、GSSは、ジェンダーを中心に社会における構造的・文化的差別を明らかにする学問です。私は特に、コミュニティ内で働く抑圧的な力関係が、ジェンダーや人種によってどのように形成されるのかに関心を持っています。
長崎でのSLでは、「女性」や「朝鮮人被爆者」という周縁化されやすい人々の視点に注目し、特に朝鮮人被爆者をテーマにレポートを執筆しました。このテーマを選んだ背景には、事前に読んだ専門書を通じて、長崎の被爆者像が「被害」に焦点化される一方で、女性、障がい者、在日朝鮮人、子どもなどの存在が周縁化されやすいことを知った経験があります。そこで、長崎における原爆の語りにどのような加害性や排除の構造が存在するのかを、ジェンダーの観点から考察したいと思い、高松先生にご指導をお願いしました。
SLで深めた学問的な学びの経験は、文化人類学におけるフィールドワークや参与観察の方法に非常に近いものでした。実際、SLへの参加をきっかけに、文化人類学を本格的に学びたいという思いが明確になりました。SL中は外部者として地域社会に入り、長崎平和推進協会や長崎大学核兵器廃絶研究センターの方々を通じて多様なイベントに参加しました。その中で、原爆の語り継ぎにおいて「属性」が大きな役割を果たしていることや、特定の場面でジェンダーの偏りが存在することに気づきました。しかし、それらをどのように理論化すべきか悩み、高松先生に相談したところ、なぜ特定の属性による語りが強化されてきたのか、その歴史的・社会的背景を考える重要性をご助言いただきました。この経験を通じて、原爆の語りは単なる歴史の記録ではなく、長崎という地域の歴史や社会構造と深く結びついた複雑なものであると理解し、さらに長崎という町を知るために様々な場所に足を運んだと思います。
学問的な問いを持ちながら参加したSLでの経験はとても濃密で、新しい発見や考えをメモするフィールドノートを4冊ほど使い切った記憶があります。このように思考を深める作業は、もちろん現在の卒業論文研究にも役立っており、これからも続けたい学びの姿勢です。
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高松 香奈 上級准教授
アーツ・サイエンス学科(メジャー:開発研究、ジェンダー・セクシュアリティ研究、平和研究)
例年、サービス先の異なる複数の学生のSLアドバイザーを務める機会をいただいています。その経験を通じて感じている、学生のサービス経験と学問的思考とのつながりについて述べたいと思います。
サービス終了後の面談では、多くの学生が現場での経験を通して知見を深める一方で、葛藤や戸惑い、自信の揺らぎを経験している様子も少なからずうかがえます。しかし、このような経験こそが、学生一人ひとりにとって貴重な学びの契機であり、新たな学問的問いが生まれる重要な出発点になっていると感じることがあります。今回寄稿くださっている吉田帆菜さんのアドバイジングにおいても、まさにそのような学びのプロセスを見ることができたと考えています。
私は、吉田さんのSLアドバイザーを務める2年前に、大学院生を引率して長崎市を訪問していました。長崎市訪問で得た学びは強く印象に残っており、そのような背景もあって、吉田さんの長崎で行ったSLの振り返りは、共感する点も多く、特に記憶に残るものでした。吉田さんは、SL開始時点からインターセクショナリティの視点を明確に持ち、学問的な問題意識を携えながらサービスに取り組んでいたと考えます。そして、現地でさまざまな活動に従事する中で、その視点はさらに深まり、原爆体験の語りにおいて「属性」が大きな役割を果たしていること、また属性によってはその経験が十分に可視化されていないのではないかという問題意識を抱くようになりました。その結果、個別の経験への関心にとどまらず、歴史的・社会構造的な分析へと探究が発展していきました。この過程は、サービスの経験を通じて得られた気づきを、学問的な問いへと発展させていく姿そのものであったと感じています。
このようにSLには、現場での経験を通して得た共感や葛藤、発見を学術的な視点から捉え直し、自らの問題意識やこれまで当たり前だと考えていた前提を見つめ直しながら、新たな学問的問いへと発展させていく意義深いプロセスがあります。そうした学びの過程に、わずかながらでもアドバイザーとして関わることができることを大変嬉しく思っており、毎年楽しみにしている貴重な機会です。
国際サービス・ラーニング(インド)
中村 未来
2022年度 国際サービス・ラーニング レディ・ドーク大学(インド)プログラム参加
いざ、南インド・Tamil Nadu州へ!
―SLを通じて発見した教育学の「面白さ」―
Lady Doak Collegeでのサービス・ラーニングは、毎日が刺激的で、学びの連続でした。
特に印象に残っているのは、「対話」の重要性です。SL活動の重要なコンセプトの一つに「ニーズ分析」があります。私たちは授業を行う小学校を訪問し、先生方や生徒たちとの対話を通じて、彼らの関心やニーズを把握することから始めました。そして、「どのようなテーマであれば生徒たちの主体的な参加を促せるのか」「私たちは生徒たちにどのような問題意識を持ち帰ってほしいのか」といった問いと向き合いながら授業を設計しました。
こうした問いを深める上で大きな支えとなったのが、SLアドバイザーの近藤正規先生です。近藤先生には、渡航前の準備段階から現地での活動、帰国後のレポート作成に至るまで、多くのご指導をいただきました。なかでも、現地で先生と交わした対話は、私の学びを一層深めてくれたように思います。先生との議論を通じて、授業づくりは教育者が一方的に内容を決めるものではなく、現地の先生方や子どもたちといったローカル・ステークホルダーとの対話を通じて形づくられるものであることに気づきました。
こうした対話を重ねるなかで、私たちが最終的に授業で取り上げることになったテーマが「Gender Equality(ジェンダー平等)」です。インドでは、女性差別やDV(Domestic Violence)をはじめとするジェンダーに関する課題が依然として存在しています。現地の先生方からもジェンダーをテーマにした授業を行ってほしいという要望があり、生徒たち自身も高い関心を示していました。そこで私たちは、インドの社会的背景を踏まえながら、ジェンダー平等について分かりやすく、かつ自分事として考えられる授業づくりを目指しました。
試行錯誤の末、ジェンダー平等に関するポスター制作などの参加型アクティビティを取り入れた授業を実施し、最後には、
「『女性らしさ』『男性らしさ』という固定観念にとらわれず、自分らしさを表現できる社会にするためにはどうしたらよいか」
「さまざまなジェンダーの人々が互いを尊重し、協力し合える社会をつくるためには何が必要か」
といった問いを提示し、子どもたちが自ら考え、意見を共有する機会を設けました。
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専門とのつながり
現在私は修士課程で教育学を専攻し、とりわけ歴史教育に関心を持って研究を進めています。具体的には、大西洋奴隷貿易の歴史がガーナの中等教育においてどのように教えられているのか、またカリキュラムや教師の認識のなかでどのように位置づけられているのかを研究テーマとしています。
一見すると、インドでのSL経験と現在の研究テーマは異なるように見えるかもしれません。しかし、その根底には共通する問題意識があります。
それは、「教育内容は誰によって、どのような社会的・文化的文脈のなかで構成されるのか」という問いです。
インドでの授業づくりを通して私は、教育は単に知識を伝達する営みではなく、地域社会の文化や価値観、そして教育に携わる人々の考え方によって形づくられるものであることを学びました。また、同じテーマを扱う場合でも、指導者がどのような意図や問題意識を持つかによって、その伝え方や学習者に与える影響は大きく異なることを実感しました。
こうした経験は、現在の歴史教育研究にもつながっています。特に、奴隷貿易という歴史的事象が学校教育のなかでどのように語られ、教師がそれをどのように解釈し、生徒に伝えているのかという点に関心を持つようになった背景には、SLでの学びがあります。
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来年4月からは、JICAで働く予定です。今後、さまざまな国や地域で人々と関わる機会があると思いますが、SLで得た学びや出会いは、異なる文化や価値観を持つ人々と向き合う上での大切な指針となるはずです。インドでの経験は、研究者としてだけでなく、国際協力の実践者として歩んでいくこれからの私を支える貴重な糧になっていくと感じています。
近藤 正規 上級准教授
アーツ・サイエンス学科(メジャー:経済学、開発研究)
2022年7月11日から22日まで、インド南部のマドゥライにあるLady Doak Collegeを訪問し、中村未来さんと学生2名によるサービス・ラーニングプログラムに同行してきました。私は開発経済学とインド経済を専門としており、一定の知識は持っているつもりでしたが、現地での経験はそれを大きく更新するものでした。
現地の学生や教員との対話を通じて強く感じたのは、社会課題の捉え方が文化や制度の違いによって大きく異なるという点です。たとえば教育格差や都市と農村の発展格差といったテーマも、日本の学生が抱く問題意識とは異なる優先順位で理解されています。
こうした違いに向き合う中で、中村さんをはじめとする参加学生は、自身の前提や価値観を見直し、より広い視野を獲得していきました。中村さんは米国育ちで英語もネイティブであり、現地の学生や教員を前にしたプレゼンテーションは見事なもので、内容・表現ともに高い完成度を示していました。中村さんはその後、本プログラムで得た学びを現在の大学院での研究に活かしています。私自身、正直言ってここまでの成果を当初は想定していませんでしたが、中村さんにとってこのプログラムが非常に意義深い取り組みであることを実感しました。
サービス・ラーニングの本質は、単なる支援活動ではなく、相互作用を通じた学びの深化にあります。現地でのフィールドワークや共同プロジェクトを通じて、学生たちは「何を知るか」だけでなく、「どのように知るか」という視点へと関心を広げていきます。こうした変化は数値化しにくいものの、長期的な成長にとって極めて重要です。
また、受け入れ先であるインドの大学にとっても、本プログラムは一方向的なものではありません。異なる教育背景を持つ学生同士が協働することで、知識の共有にとどまらず、学びの方法そのものについて相互に考える貴重な機会となっています。
今回の経験を通じて、サービス・ラーニングは単なる現場体験ではなく、「他者との関係の中で自己を再構築するプロセス」として捉えるべものだと改めて感じました。今後とも、このような国際的な学びの機会を持続的に発展させていくことに、大きく期待したいと思います。
リベラルアーツ教育におけるサービス・ラーニング
黒沼 敦子 特任助教
教育学、サービス・ラーニング・コーディネーター
サービス・ラーニングの学問的意義の一つは、現場での経験とその振り返りを通じて、社会の捉え方、自分の立ち位置、そして知のつくられ方そのものを問い直すことにあると考えています。本特集の2つの事例は、その姿をよく表しています。長崎では原爆の語りにおいて不可視化されている経験や声に対する眼差しが生まれ、インドでは教育内容が誰の視点からどのような文脈で構成されるのかという探究へと深まりました。いずれも地域社会に分け入り、そこに生きる人々と真摯に関わろうとする中で、自らの知識や前提を問い直すことから紡がれたものです。このような問いの形成と深化は、各専門分野の教員であるサービス・ラーニング・アドバイザーとの対話と省察によって支えられています。本特集の事例からは、リベラルアーツ教育におけるサービス・ラーニングが、学生の経験を起点に、学生と教員が対話を通じて理論と実践を往還しながら学問と社会に向き合う、協働的な学びの場であることが浮かび上がってきます。
SL センター長からのメッセージ
加藤 恵津子 教授
文化人類学
サービス・ラーニング・センター センター長
この春学期一番の変化。それはGE「サービス・ラーニング」がSLR101「サービス・ラーニング概論」になり、英語開講になったこと(秋学期には日本語開講)。ちょっと奇妙ですが、これまでSLには100番台の基礎科目がなく、GEを取ったら急に200番台(30日間の国内外でのサービス)に飛ぶ、いわば「ハードルがん上げ」に見える組み立てでした。100番台から300番台までが並んだ今、「学問として順序立てて学んでいこう」という、メジャーに似たメッセージが聞こえます。またほとんどが日本語話者の約70名の学生が、英語でSLを学ぶ意義も大きいのです。なぜならその過半数はこの夏、国外で英語で活動しますし、国内でサービスをする人も、英語を使えれば活動の幅が広がるからです。英語話者のようにではなく、自言語のアクセントの英語で、しっかりと内容のある思考や感情を伝え、聞く。世界はそんな地球市民たちが回しているのです。
編集後記
「この春の私の小さな変化」
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この春、長袖のシャツや春ニットを着る機会がほとんどありませんでした。スプリングコートも出番が少ないまま、季節が過ぎていきました。私も地球も、少し暑がりになった気がします。小さなことですが、自分自身の変化と気候の変化の両方を身近に感じた春でした。
アプリでスペイン語を学び始めて2年。あまり進歩を感じられていませんでしたが、最近ふと見たスペイン語のウェブサイトを理解できて驚きました。小さな積み重ねが、確かな変化につながることを実感しています。
三日坊主が常の私ですが、この春は一念発起して体づくりを始めました。まだ変化は実感できませんが、小さな積み重ねを信じ、この夏はバテずに過ごせる自分でいたいです。
この春、ブラインドタッチの練習を始めました。自己流を見直し、小指や薬指の担当キーを覚え直しています。ぎこちなさはあるものの、少しずつ身についていく感覚があり、小さな変化を実感しています。
足の不調から意識して歩き始めて一年ほどが経ち、痛みも和らぎ、気持ちも少し軽くなりました。春から夏へと移ろう季節を感じながら、久しぶりにハイキングに出かけたいという思いが芽生えています。

