2025年度春学期
photo: Nagasaki Atomic Bomb Exhibition at International Conference Room, Kiyoshi Togasaki Memorial Dialogue House, ICU
桜の花が咲き誇り、新たな期待とともに始まった春学期。一般教育科目「サービス・ラーニング」を履修した68名の学生たちは、地域へと足を運び、サービス活動を通じて多くの気づきと学びを得ました。夏には、58名の学生が海外へ、7名の学生が国内各地へと向かい、それぞれ30日間のサービス活動に挑みます。
地域や社会と関わることで得られた学びは、進路や価値観、学生自身の行動やモチベーションにどのような変化をもたらすのでしょうか。
本号では、サービス・ラーニング(SL)経験者たちの「その後」に焦点を当て、SLを通じて得た気づきが今の自分にどう結びついているのかを探ります。
サービス・ラーニングの学びは、一過性のものではなく、未来へと続く大切な足跡となる--そのことを感じていただければ幸いです。
Topic
Contents
- 長崎サービス・ラーニング経験者によるイベント開催
- 卒業生たちのその後
- 学びは終わらない--サービス・ラーニングが人生に残すもの
- SL センター長からのメッセージ
- 編集後記
長崎サービス・ラーニングが導いた次の一歩
2025年5月8日(木)に、長崎県(長崎平和推進協会および長崎大学 核兵器廃絶研究センター)でのサービス・ラーニングに参加した学生と長崎出身のICU生が企画したイベント「Echoing the Voice of Nagasaki」 が開催されました。
詳細はこちらから。
長崎でのサービス・ラーニングに参加し、今回のイベントを企画運営した学生3名に、それぞれの思いを語ってもらいました。

斎木 理世
2024年度 長崎平和推進協会・長崎大学
サービス・ラーニングには、単に活動から学ぶだけではなく自分にできることを実践することも大切な要素として含まれています。この意識を持って長崎での30日間を過ごしたものの、平和の実現に対して自分にできることを実践することはおろか見つけることすらできなかったことに悔いが残りました。そのため、研修が終わってからも私にできることはないかを模索して、その結果として今回の企画の実現に至りました。サービス・ラーニングで長崎に行ったからこそ、問題について自分には何ができるかという視点から考えさせられ、そして今回の企画を実行できたことで、平和の実現という大きな事柄に対しても私にできることはゼロではないと自信に繋がった大変ありがたい経験となりました。

吉田 帆菜
2024年度 長崎平和推進協会・長崎大学
サービス・ラーニングはプログラム終了後も自分の中でこの問題を考え続けていたいと思うほど自分に影響を与えたものでした。長崎では多くの方の支えのもと被爆地としての長崎の経験、核兵器の非人道性、核兵器廃絶に向けた理論的な枠組みについて、深い学びを得ることができました。今回のイベントを企画するにあたり、そうした学びを自分たちだけで留めておくのはあまりにも惜しいという思いがありました。また、東京に帰った後、斎木さんと共に、被爆者の方々がアメリカで被爆体験を伝えるツアーに参加した様子を描いたドキュメンタリーを観に行きました。そこでは、ご高齢の被爆者の方が国境を越えて体験を語ることの難しさに直面している姿が印象的でした。このような背景から、国際的な多様性を持つICUという環境を最大限に活かしたいという思いに至り、今回の企画を実施しました。できるだけ多くの異なるバックグラウンドを持つ人にこの問題を届けるため、ICUで通訳を学んでいる学生に同時通訳を依頼したり、資料を完全バイリンガルにしたりなどの工夫も行いました。核問題は、被爆地だけではなくみんなに関わる問題ということを一人でも多くの人に考えてもらえていたら嬉しいです。

宍野 凜々子
2022年度 長崎平和推進協会・長崎大学
私は長崎で、多様な文化・人・記憶と出会いました。30日間で経験できたことは私にとって重要で、活動終了後も長崎と接点を持ち続けたいと思いました。平和や核兵器の議論を広げるためには、私たちSL生が話すことをやめてはいけない。2人の後輩が長崎に関する企画を実現したい!と声をかけてくれ、私もこの平和の輪に入りました。
迎えた5月8日。90歳になる三瀬さんと、長崎大学の吉田先生をICUにお招きし、多様なバックグラウンドを持つ多くの学生と一緒に、平和について、原爆について考える機会が実現しました。当日は多くの方が積極的にご参加くださり、私たちが作った平和の輪が広がっていくのを感じることができました。素直にとても嬉しかったです。
今年で被爆後80年を迎えますが、この間日本が戦争を体験していないことは、本当に奇跡だと思います。今を生きる一人の市民として、ICUを卒業しても、引き続き「平和」な社会の実現に向けた歩みを進めていきます。
![]() ![]() |
卒業生たちのその後
サービス・ラーニング(SL)プログラムに参加した学生たちは、卒業後、それぞれの道で社会人として活躍しています。学生時代の挑戦や学びは、今の仕事や生き方にどのような影響を与えているのでしょうか。SLを経験した2名の卒業生の声をご紹介します。

(学)東京インター
ナショナルスクール 教師
(公財)日本YWCA会長
樋口 さやか 氏
2008年度 Amity Foundation
私は2008年の3月に3週間ほど、中国の南京市のAmity Foundationとジョン・ラーべハウスでサービス活動を行いました。日中の和解を考えるというテーマでサービス活動を行いました。期間中は、ICUからのメンバーや他団体からの多国籍なメンバーと、歴史への考え方、これから、私たちは何をしていくべきなのかを対話しました。帰国後も、南京からの学生の受け入れの際のお手伝いを通して、ICUの在学中4年間を通して、サービス・ラーニングには関わり続けました。これらの経験もあり、卒業論文のテーマを平和教育に決め、大学院でも研究を続けました。
現在、私はインターナショナルスクールで日本語(国語)の教員をしています。歴史を認識し、それを乗り越えて未来志向の世界を作るという考えを基盤とした平和教育について考えることが今もライフワークであると考えています。さらに、サービス・ラーニングという学びを公教育の中でどのように実践していくかも近年の私の大きなテーマとなっています。勤務校で、サービス・ラーニングについては、樋口に聞くと良いと思われるようになったのは、ICUでの経験があったからかと思います。
サービス活動から早20年近く経っていますが、その経験は、私にいくべき道へと導き続けてくれ、今もそうであるように感じています。これからも、それを糧に精進していければと思います。

国際基督教大学環境推進部管財グループ
ファームマネージャー
堀内 千種 氏
2021年度 Japan Summer Service-Learning (JSSL)
私は2021年夏にJSSLに参加し、東京都三鷹市と長野県天龍村の2拠点でサービス活動を行いました。参加から4年が経った今でも、JSSLでの1か月は自分の価値観や進路に大きな影響を与えた経験だったと、改めて実感しています。
地方都市で育った私にとって、人口約1000人の天龍村での滞在は、これまでにない新鮮な体験でした。天龍村では、村の方が畑で採れた野菜を届けてくれたり、地域の食事の場に招いてもらったりと、食を通じた温かな交流が日常に根付いています。特にコロナ禍で人との接触が制限されていた当時、一緒に食卓を囲む時間は、心に残る貴重なものでした。
一方、三鷹市では都市農業に取り組む農家さんのもとで作業をお手伝いしたり、地域の小学校で国際交流の授業を行いました。異なる地域での活動を通じて、私は「食」や「地域との関わり」に強い関心を持つようになり、その後の学生生活では他地域への長期滞在や、近隣農家での援農活動をしました。
活動を通じて出会った三鷹市や天龍村の方々とは、今も交流が続いています。そして現在、大学を卒業して1年が経ち、私はICUの職員として、学生が自然や食と向き合う機会を創出する「ファームプロジェクト」に携わっています。これまでに築いてきた地域とのつながりを活かし、今度はICUを拠点に、食を通じて新たな出会いや学びの場をつくっていきたいです。
![]() ![]() ![]() |
学びは終わらない―サービス・ラーニングが人生に残すもの

黒沼 敦子 特任助教
教育学、サービス・ラーニング・コーディネーター
「僕のサービス・ラーニングはこれから始まります」
この言葉は、約15年前にSLCが発刊した『サービス・ラーニングとその後』(2011)で紹介された、ある学生が卒業式の日に残した印象的な一言です。この学生にとって、サービス・ラーニングで得た経験や気づきは、人生の中で問いとして、指針として、自身のうちに「続いていく」ものであったのではないでしょうか。
SLCが2009年に実施した卒業生調査では、多くの方が、サービス・ラーニングが人間的な成長や職業選択、社会課題への関心に大きな影響を与えたと答えています。特に、人との出会いや現場での経験が強く記憶に残っているという声が多く寄せられました。とりわけ、約4割の卒業生が、活動中に自分と他者の違いを認識し、その違いを前向きに受け止めたと答えており、価値観の変容や関係性の再構築に繋がっていることがうかがえます。
授業の一環として行われるサービス・ラーニングは、単なる単位取得にとどまらず、他者との関係の築き方や社会へのまなざし、そしてキャリアの展望にまで持続的な影響を及ぼします。「これから始まる」という言葉に象徴されるように、サービス・ラーニングは、人生の中で問いを持ち続け、応答的に他者と関わる姿勢を育む機会となっています。
SL センター長からのメッセージ
加藤 恵津子 教授
文化人類学
サービス・ラーニング・センター センター長
ICUでは今年度から一学期が短くなり、10週間から9週間になりました。これに伴い、一般教育科目「サービス・ラーニング(SL)」の履修生は少し大変になりました。18時間の学外サービス活動において、ホスト団体との交渉、活動日時の相談、活動、振り返りにかける時間が、昨年より1週間減ったわけです。ICUの一学期はもともと「短距離走」にたとえられるほど忙しいのですが、100メートルでなく90メートルで記録を測るようになったのです。この「短距離走化」は瞬発力・爆発力を養ういっぽうで、「とりあえず」来たものをこなせばよいという発想を生むかもしれません。本来サービスは、時間をかけて信頼関係をつくり、相手の要望にゆっくり耳を傾けて行う「長距離走」であり、タイパ、コスパを計算して行うものではないことを考えれば、今年からの変化は、授業としてのSLにとってはチャレンジです。皆さん、心がけて「深み」を求めて下さい。
編集後記
この春学期は、SL授業内外でパートナーシップを継続することの意義を改めて実感できました。特に、長崎での学びを発展させた原爆展やP&RWeekでは、学生と教職員、地域と世界がつながり、行動へと結実しました。学内外で築いた関係性を大切にし続けることで、学生の視野が広がり、行動につながっていく。今学期は、SLの持つその力と責任を改めて感じました。
4月よりSL Centerの新たなメンバーとなりました。SL経験学生の運営するイベントなどを通じ、SLが参加生に多くの素晴らしい学びをもたらしていることに感銘を受けています。ICUのSLプログラムの更なる発展に少しでも貢献したいと思っています。
春学期はSL経験学生企画のイベントが開催され、忙しくも充実した日々となりました。自身の平和への思いを形にして広く伝えたいという学生の熱い思いはとても頼もしく、そのエネルギーをこれからも持ち続けて活躍して欲しいと思いました。
春学期は学内組織改編を経て学生サービス部に編入され、他部署との連携が深まりました。新たな環境での挑戦と学びに感謝し、今後も学生支援に尽力してまいります。
この春は改装したての本館や芝生広場に集う賑やかな学生の姿にマスクは見られず、新型コロナパンデミック前のキャンパス風景がすっかり戻ったと感慨深く感じることが度々ありました。あれから5年、油断せず日々の心がけを大切にしたいとあらためて思います。